The Essays of Maki Naotsuka

オンラインエッセー集

16 学生時代の思い出 2006.10.19

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出典:Pixabay

 学生時代の友人2人から相次いで手紙がきた。

 同人誌を送り、わたしはその手紙の中でざっと近況報告し、ブログの存在を明かした。

 友人の1人は、パソコンはあるがまだネットにつないでおらず、つないだら訪問すると書いてくれ、もう1人の友人はすでに訪問してくれた由――恥ずかしいけれど、嬉しい……。

 この2人の友人にもう1人の友人とわたしを加えた4人は同じ大学の法学部の仲間で、くっつきあって授業を受けたり、ときどき集まったりしていた。

 それぞれが別の友人グループにも属していたが、皆どこか変に生真面目でかたいところがあり、うわべだけのちゃらちゃらしたつきあいかたを好まないとあって、この4人が集うと妙に暗かった。

 というより、この4人で集まると、そうした側面が強く表に出た。ほかの友人といるときは、皆ちょっと違っていたりもした。楽しげに明るく、華やかに見えた。わたしもつき合う相手によっては、ちゃらちゃらしていたり、ヒッピー風だったり、カマトトっぽかったりした。

 ある夜、4人で映画を観にいった。なぜかオカルト映画しかあっておらず、それを4人でぼーっと観た。「オードリーローズ!」という館内に響き渡った映画の中の声を覚えている。そしておでん屋に入ったが、客が少ないのか、汁の中の種は総じて硬くなっていた。ごりごりになったコンニャクや卵を4人で黙々と食べ、友人の1人のアパートへ行った。

 わたしは女子寮暮らし、他の2人は通いとあって、その友人のアパートに泊まることになった。彼女は立派な猫を飼っていた。ライオンをフランス読みにしたリオンという名をつけていたが、猫の癖にライオン、というかトラのような威容と気品があり、飼い主の友人だけにしかなつかなかった。

 友人は猫を頑丈なケージに閉じ込め、わたしたちに手を出さないようにと忠告した。誰かがうっかり手を出しかけ、瞬時に「がぉぅ」という感じで猫の太い腕が柵と柵の間から出てきたが、危ういところで難を逃れた。

 4人はそれからお酒を飲んだのだったか、飲まなかったのだったか……。夜は鬱々と更けていった。そして、わたしたちはいつしか眠っていた。

 その部屋の住人である友人は、まだ暗いうちから、何か朝ごはんを作ってくれていた。眠気を覚ますために氷水で顔を洗ったらしい。メニューは覚えていないが、春雨のスープがあった。これが、その集いに関するすべての記憶だ。

 女子寮暮らしにおける記憶、文芸部における記憶、当時の恋愛相手の寮における記憶……といろいろ思い出のある中で、なぜかあのときの4人の集いは記憶として鮮明で、学生時代の代表的な思い出となっている。

 で、トラのような猫を飼っていた友人とは、喧嘩をしてしまった。その頃、わたしは不整脈の原因がわからず、治療方針も定まっていない肉体の不調の中で、あえぎつつ、苛立ちながら日々を過ごしていた。友人はわたしを心配し、しきりに電話をくれた。お医者の娘ということもあって、医療に関することもいろいろと教えてくれた。

 ありがたかった。が、ある日、わたしはもう電話に出ることさえ億劫な肉体の大儀さからつい、うるさい、そんなに電話をかけられたんじゃ小説も書けやしない、といってしまった。悪かったと思っても、遅かった。

 今でも年賀状のやりとりはあり、彼女も本心から怒っているのではないらしいことは、伝わってくる。どうした偶然か、彼女は自分の分譲マンションの部屋、わたしは借りているマンションの部屋という違いはあるが、同じ11階に暮らしている。

 同じ高さから空を見、地面を見ているわけなのだ。わたしがこの市に引っ越した年明けの彼女からの年賀状に「11階はどうですか?」とただ一言書き添えられていて、そのことに気づいた。

 喧嘩をする前の話に遡るが、坊やに、といって彼女手製の人形を贈ってくれた。人形には『かちどき』というタイトルがついていて、兜が別にあった。

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 そのとき彼女は、もしわたしに何かあったら、きっとこの人形の髪がのびるから

――と、不気味なことをいった。

 彼女は家に特別大事にしている人形を持っているそうで、その人形だけは決して埃をかぶらないという。手入れの必要が全くないのだそうだ。

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 何かあったら髪がのびるったって、最初からこんなに長いじゃないの、とわたしは思い、可愛いお人形のために下手な俳句を作った。恥ずかしいので、彼女には見せなかった。 

手に菖蒲兜うつくし武者人形
汝(な)が勝利何処の原ぞ武者人形
勝鬨(かちどき)の面(おも)の艶なる武者人形